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ドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』(特別寄稿) #eiga #film #documentary #cinéma

【虐殺の被害者が加害者と対峙する――ドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』@イメージフォーラム】

もたもたしているうちに渋谷イメージフォーラムでの上映がモーニングショーだけ、そして21日(金)までになってしまったので、慌てて紹介します。

昨年、公開されて大きな注目を集めた『アクト・オブ・キリング』(ジョシュア・オッペンハイマー、2012年)を覚えていらっしゃる方も多いでしょうが、『ルック・オブ・サイレンス』(同、2014年)は時系列的にはその続編、内容的には対を成す作品になります。

どちらも取り上げているのは、インドネシアで1965年から66年にかけて100万から200万もの人々が「共産主義者」として虐殺された事件です。驚くべきことですが、50年経ったいまも加害者たちは一切、罪に問われることなく、多くが権力を持つ者(政治家であれ、実業家であれ、ギャングのボスであれ)として、社会でのなかで支配的な位置を占めています。その一方、被害者とその家族は「共産主義者」として長く差別され、困難な生活を強いられてきました。もちろん、声を上げるなど許されないことでした。

『アクト・オブ・キリング』は、加害者が自らの加害行為を演じて映像化する過程を追うという斬新な手法で、その内容のおぞましさとともに観客の度肝を抜きました。『ルック・オブ・サイレンス』は、逆に被害を受けた側に焦点を当て、虐殺の後に生まれた被害者の弟アティ・ルクンが加害者を一人ひとり訪ね、彼らと対峙していくさまをオーソドックスなドキュメンタリーの手法で静かに映し出しています。

被害者として言葉を発することが直接的な身の危険につながりかねない状況のなかで、無料の検眼を装って加害者のもとを訪れ、殺されたのは自分の兄だと切り出すアディ。その決意を秘めた揺らぐことのない表情が、動きのない画面に強い緊張感をもたらしています。一方、カメラは、不意を突かれ(まさか被害者から加害の事実を突きつけられる日が来るとは思ってもいなかったのでしょう)、うろたえ、怒り、脅し、あるいは、言い訳し、微笑み、和解をもちかける加害者の姿も、容赦なく抉り出しています。

前作の『アクト・オブ・キリング』を見た時、なぜ加害者がこんなにも嬉々としてオッペンハイマーの取材を受け入れ、一切、悪びれる様子もなく、まるで記録されるべき英雄的な事績のように自らの残虐な行いを誇り、演出たっぷりに再現までして見せるのか、不思議でたまりませんでした。ですが、今回、『ルック・オブ・サイレンス』を見ていて、ああ、これなのかと、謎を解く鍵の一端が垣間見えたように感じた瞬間がありました。

先週末から今週末にかけて、原爆投下とそのナラティヴをめぐる対照的なスタンスの記事を二つ紹介しました。「原爆投下によって多くの命が救われた」というナラティヴが優勢であれば、「原爆投下は正しいことだった」という判断がより容易になるように、「共産主義者は社会の安定を脅かす危険な存在で撲滅されて当然」というナラティヴが優勢な世界では、彼らの虐殺を正当化することがより容易になるのは想像がつきます。それどころか、加害者が自らを「悪を倒したヒーロー」として英雄視することも可能になるでしょう。『アクト・オブ・キリング』でも『ルック・オブ・サイレンス』でも、欧米から来た映画監督の前で、加害者たちがあれほど嬉々として自らの残虐行為を語り、再現して見せたのは、そこに格好の伝記作者(英雄譚の語り部)を見出したからなのでしょう。結果は彼らの期待とは異なり、歴史の闇に埋もれていた虐殺の事実を世界に知らしめるものになりましたが。

社会がどのようなナラティヴを優勢なものとして受け入れるかが、個人の行動と思考にどれほど大きな影響を与えるのかを、非常に特殊で極端とも思える事例を通して(でも、それは本当に稀な事例でしょうか?)、剥き出しにして見せる映画です。そしてナラティヴの形成は、上に教室の場面を紹介したように、もちろん教育とも深くかかわっています。終戦70年目を迎える私たちにとっても、本当に差し迫った緊急の問題の一つと思います。

来週21日(金)までで、朝10:30からと早いですが、ぜひ劇場へどうぞ。

水谷みつる
*facebookより転載

映画『ルック・オブ・サイレンス』予告編


資料
「原爆投下は必要なことだった」という一面的な《語り》を乗り越えようとするBBCの記事 

by nofrills

【オピニオン】原爆投下を神に感謝
「原爆投下を神に感謝」という見出しのThe Wall Street Journalのオピニオン記事の日本語訳。

The Wall Street Journal 元記事 原文
Thank God for the Atom Bomb
By Bret Stephens Aug. 3, 2015 7:02 p.m. ET

現代第8位
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