人気ブログランキング |

アピチャッポン・ウィーラセタクン「ブンミおじさんの森」を見た

さかぐです。
昨日東京フィルメックスのオープニング作品で、今年カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督による
「ブンミおじさんの森」を見ました。アピチャッポンも来日!



これは「プリミティブプロジェクト」という長いプロジェクトのひとつで、東北タイのナブアという村にアピチャッポンが数年にわたり滞在しながら少しずつつくりあげた小さな出来事と、「過去を思い出せる人」という一冊の小さな本がインスピレーションの元になっている。
「プリミティブプロジェクト」については、前日の東京都現代美術館でのトークで詳しく聞いた。映画作りのためのプロジェクトではなく、滞在から自然に自由にアイデアを巡らせながらゆっくりと生み出されていった映画。

舞台は東北タイの小さな村。そこで農場を営むブンミおじさんのもとに集まった精霊と幽霊と、生きている人間が、淡々とゆっくりとブンミおじさんの最期の日まで寄り添う、そんなマージナルな世界の物語。
ほぼ全編にわたって夜とジャングルのシーンばかりなので、画面暗い。その微妙な色彩が、夢のような世界を繊細にそっと浮上させて、見てる側もちょっとドラッギーで夢うつつにジャングルの闇にじわじわと絡め取られていく。観終わったあと、ぽかーんと、あれ、今なんだったの?というような、しばらく向こう側からもどってこれないようなまのびした時空間体験は、アピチャッポン独特のもの。でもより明解なストーリーの柱があって、今までの中で一番わかりやすいといわれる作品です。

映像は本当に美しい。タイ語の響きも鳥のさえずりのように美しい。サウンドもすばらしい。
"A beautiful strange dream."とカンヌの審査員長ティム・バートンが評した通り。
けっこう笑えるシーンもあって、「これをコメディ映画?という人もいました」とアピチャッポン。

また、この映画の舞台となったタイ東北の政治的な背景を指摘する人もいる。70年代タイ政府の共産党員弾圧により、多くの共産党員や学生が東北タイのジャングルに逃げ込んだため、その村の男たちも政府に捕まり殺されたり、ジャングルへ逃げ込んで応戦した、という歴史のあるところ。さらに今年バンコクでデモ暴動を起こした赤シャツ隊は、東北タイの貧しい農村出身者が中心。かわりゆく原風景と人の原始的精神、政治的な過去、ジャングルへ吸い込まれていった人々の想い、いろんなレイヤーがさまざまな読み取り方を可能にしている。
「僕は政治的な作家ではない」、というし、具体的なメッセージもひとつもないけど、アピチャッポンの故郷という個人的理由から選ばれた東北タイが、全タイにとって意味ある舞台設定になってるところも、この映画の奥行きの深さかなと思う。しかもあのデモ鎮圧で悲しく沈んだタイ人の元にすばらしいタイミングで飛び込んできたカンヌ最優秀賞受賞のニュースだったし、偶然を必然に変えてしまうのも才能なんだと思う。

アピチャッポンの映画に必ず登場するジェンおばさんと若者トンも健在。ジェンおばさんちょっと太ったなとか、トンのばかっぽい笑顔相変わらずだなとか、映画というフィクションの中にいる俳優のほんとの人生まで透けて見える。セリフも彼らと相談しながら決めているんだそう。特に意味のないだらだらした談笑シーンもそうやって作られているのかと納得。

映画のあとのQ&Aで、熱烈なファンらしき人が「あなたの作品には映っているはずのないものの息遣いまで聞こえる」といっていた。

アピチャッポンの映画って、映画のための映画作りではなく、彼が人々と過ごした時間や空気、そこで流れていた曲、見ていた風景、生きている存在そのものを映像に織り込んでいくような作業なのかもしれない。彼がカメラの向こうに向けるまなざしのやさしさは、ヒューマニズムとかではなく、ブンミおじさんを囲むやさしい精霊や人々の愛情と同じ、つまり人を人として生かしているごくパーソナルな愛ではないかと、なんかそんなことを思った映画でした。いいやつだな、アピチャッポン。



エンディングで、寂しいといって寺を抜けだしたトンが坊さんの袈裟を脱いでシャワーを浴びて、ジェンおばさんと飯を食いにいったところで、かかる音楽が、タイのインディーポップPenguin Villaの“Acrophobia”。
この落差がよい。Q&Aでタイ人からこの曲を使用した理由について質問がでた。
主に歌詞のこと。愛に届かないことへの恐れと死への恐れを重ねてるんだそう。大好きな曲といっていた。
ゴーストの世界から現代へ戻る鍵にもなっているとか。

アピチャッポン映画と音楽の関係については、
VOID Chickenペーパー版vol.8号に、SOI MUSICの木村さんのアピチャッポンインタビューがあります。木村さんはウィスット・ポンニミット(タム)のマネージャーでタイのポップカルチャーに詳しい人。
まだ在庫いっぱいあるので、アピチャッポン映画の謎に迫りたい方はぜひ読んでください!
日英バイリンガルです。最近ナディッフにもまだあるのかな。けっこう貴重かも。
b0074921_13301192.gif

▼▼▼ナディッフの全国店舗はこちら▼▼▼
http://www.nadiff.com/shopinfo/shoplist/index.html
またはこちらまで〜
mail to: voidchicken@voidvoid.sakura.ne.jp




現在209位
人気ブログランキングへ


現在7位
にほんブログ村 美術ブログ 現代美術へ
にほんブログ村
by voidchicken | 2010-11-21 14:01 | movies


↑王様が見守ってるよ☆


by voidchicken

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

最新の記事

俵谷哲典氏インタビュー公開 ..
at 2018-08-11 15:28
川口隆夫インタビュー Tak..
at 2017-12-18 22:38
【黄金町バザール】サン・ピッ..
at 2017-08-22 21:27
2017年国際展巡り一人旅 ..
at 2017-08-22 21:21
バンコクアートだより2017..
at 2017-07-22 12:49
追悼・後々田さんから。
at 2017-06-15 22:37
映画「ギターマダガスカル」と..
at 2017-05-04 00:34
メルマガ5/2でました。
at 2017-05-03 15:59
感じてもだえる愛の重さ…二藤..
at 2017-05-02 19:41
Kochi Muziris ..
at 2017-01-19 15:07

カテゴリ

introduction
travel
art days
foods
English essay
sexuality
obituary
current issues
movies
music
books
design
town
boxing
animal
français
manga
sabo's talking
remembrance
ukulele
woman
#françase

以前の記事

2018年 08月
2017年 12月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 01月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2001年 08月

タグ

(465)
(454)
(434)
(309)
(260)
(256)
(164)
(140)
(128)
(110)
(110)
(106)
(98)
(45)
(39)
(33)
(27)
(10)
(8)
(8)

検索

Who's voidchicken?

さぼとさかぐとさぼぐオネエのアートブログ。
Facebook
VOID chicken


Twitter new account!
handled by sabo
sb_voidchicken

VC on tumblr

VC on You Tube


メルマガの登録はこちら
*Thank you for subscribing
to our mail magazine,
"VOID Chicken Nuggets"

VOID Chicken Nugget
(まぐまぐ)


*Original Website
Art magazine V O I D/chicken




Art for all.
art blog voidchicken

*The blog covers world's art news, travels, soulfoods, and other topics.  Daily updated by Sakagu, Sabo and Sabogu, and other poeple.

We support
TAB button


♪♪♪ notice ♪♪♪
Show only approval comments and trackbacks.

Thanks for click!
ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村 美術ブログ 現代美術へ
にほんブログ村
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ

*VOID Archive
オノ・ヨーコ インタビュー
Yoko Ono Interview(2003)

*co-sponsored
株式会社ゴーライトリー 
/The Golightly

*追悼・美術評論家
Tribute to the first female art critic in Japan
日向あき子サイト Memorial of Akiko Hyuga

Subscribe to me on FriendFeed


art for all.

記事ランキング

画像一覧

ライフログ


現代アートを買おう! (集英社新書)


図工室にいこう―こどもがつくるたのしい時間

最新のトラックバック

ドイツ皇帝の最後の宮殿で..
from dezire_photo &..
セルバンテス『ドン・キホ..
from dezire_photo &..
デビッド・ボウイが10年..
from センタのダイアリー
新潟に巨大ハーブマンあら..
from 宮村周子の展覧会リコメン す..
"表現したい!"を思いの..
from Boochanの宝探し

その他のジャンル

ブログジャンル

アート・デザイン
語学